退去後の新規募集では、その時点の相場を踏まえて賃料を設定できます。ところが、長く入居していただいている住戸では、周辺相場や所有コストが変化しても、契約賃料は動きにくい。一方で、借入金利、税、保険料、修繕費など、賃貸住宅を維持するための負担は増えていきます。
これは、私自身が不動産オーナーとして直面した課題でした。管理会社へ相談し、成果に応じた報酬をお支払いしてでも対応してほしいとお願いしましたが、簡単には進みませんでした。理由を掘り下げると、担当者の姿勢ではなく、管理業務の採算、工数、入居者との関係、法的な役割分担という構造的な問題が見えてきました。
適正な賃料を、根拠と対話で。
この「実務を担う受け皿が見つかりにくい」という空白を埋めるために、賃料増額診断・交渉サービスを始めました。
この記事でお伝えしたいこと
1 退去時には相場を反映できても、入居中の賃料は見直しにくいこと
2 管理会社には、採算・工数・入居者対応・法的な役割という難しさがあること
3 不動産オーナーでもある弁護士として、根拠と対話による受け皿を設計したこと
不動産オーナーとして、私自身が賃料見直しの壁に直面しました
私自身、賃貸不動産を所有しています。入居者が退去し、新たに募集する場面では、その時点の市場を踏まえて条件を決められます。しかし、長く住んでいただいている住戸では、周辺の新規募集賃料が変化しても、現在の契約賃料はそのままになりやすく、見直しのきっかけをつくること自体が簡単ではありません。
長く住んでいただけることは、オーナーにとって本来ありがたいことです。その一方で、既存契約だけが長期間据え置かれ、新規募集賃料との開きが大きくなれば、建物の維持や将来の修繕を含めた賃貸経営に無理が生じることがあります。新規賃料と、継続中の契約で検討される賃料は、同じ数字をそのまま当てはめられるものでもありません。詳しくは「継続賃料と新規賃料の違い」で整理しています。
金利や維持費が上がり、従来の収支が変わり始めました
私の所有物件でも、借入金利や保険料、修繕費、設備費などの負担を無視できなくなっています。運用全体が直ちに成り立たないわけではありませんが、金利上昇などが続けば、将来のキャッシュフローが厳しくなりかねない物件もあります。以前は回っていた収支が、外部環境の変化によって少しずつ変わり始めました。
だからといって、増えた負担をそのまま賃借人へ転嫁すればよいとは考えていません。賃料の見直しでは、契約の経緯、租税その他の負担、経済事情、近隣・同種物件の賃料など、個別の事情を確認する必要があります。物価や費用が上がったという一つの事情だけで、希望する増額が当然に決まるわけではありません。[1] 詳しくは「固定資産税・物価・修繕費・金利の上昇は根拠になるか」で解説しています。
管理会社にお願いして分かった「誰も悪くない構造」
私も最初は、管理会社に賃料見直しへの対応をお願いしました。増額が実現した場合には、成果に応じた報酬をお支払いしてもよいと提案しました。それでも、実際の対応はなかなか進みませんでした。
当初は、なぜ動いてもらえないのだろうと思いました。しかし業務を具体的に分解すると、管理会社側にも無理のない事情がありました。対象住戸の抽出、根拠資料の準備、オーナーとの調整、入居者への説明、反論への対応、記録、合意後の管理システム変更まで、多くの工数がかかります。通常の管理報酬との関係では採算を合わせにくく、入居者との関係にも配慮が必要です。
これは担当者の意欲の問題というより、通常の管理業務だけでは優先しにくい構造の問題でした。管理会社の役割を否定するのではなく、どこまでを管理会社が担い、どの段階から法律事務所へつなぐかを整理する必要があります。詳しくは「管理会社が賃料増額に関与する法的境界と弁護士への切替時点」で整理しています。
管理会社だけでも、従来の弁護士業務だけでも埋まりにくい空白
では、弁護士である私が、自分の物件について自分で交渉すればよいのか。オーナー本人が自らの契約について話し合うこと自体が、直ちに問題になるわけではありません。ただ、所有者として利害を持つ当事者と、冷静に法的評価を行う専門家という二つの立場が重なると、相手の事情を聞きながら着地点を探るための距離を保ちにくいと感じました。自分の物件だからこそ、感情や収支への不安が判断に入り込みます。
一方、管理会社がオーナーの方針や資料を伝え、事実関係や賃借人の意向を確認することまで、直ちに弁護士法上問題になるわけではありません。ただし、賃借人が増額の根拠や金額を争い、権利義務に関する個別交渉を報酬目的で反復継続して扱う場面では、業務の具体的内容に応じて弁護士法第72条との関係を検討する必要があります。[2] 本サービスは、管理会社の通常業務を置き換えるのではなく、法的評価や交渉対応を要する局面を弁護士が引き受けるためのものです。
住居系物件では、一住戸ごとの増額幅に比べて、契約確認、根拠資料の整理、通知、交渉、合意書作成に相応の時間がかかります。そのため、オーナーが依頼を検討できる料金と、法律事務所が責任をもって継続できる業務量を両立させるには、従来の個別案件とは異なる設計が必要でした。私は、複数住戸をまとめて扱い、手順を標準化することで、この課題の受け皿をつくろうと考えました。法的な要件は「借地借家法32条による賃料増額請求の要件」で詳しく説明しています。
目指すのは「できるだけ高く」ではなく、根拠のある着地点です
このサービスは、賃借人に一方的な値上げを押し付けるためのものではありません。契約書、改定履歴、税や維持費の変化、周辺の比較事例などを確認し、見直しを求める根拠と金額を整理します。そのうえで賃借人へ説明し、事情を聞きながら、まずは任意の合意を目指します。
ここでいう「適正な賃料」とは、当事務所が一方的に法的な正解を確定するという意味ではありません。借地借家法第32条の考慮要素、契約の経緯、個別事情を踏まえて見直し案を整理し、合意できる着地点を探すという意味です。根拠が十分でない場合や、オーナーの希望額が過大と考えられる場合には、金額の再検討や、現時点では進めない判断をご提案することもあります。合意に至らず、最終的な法的相当額が争われる場合は、裁判所が判断します。
賃借人の生活の安定は重要です。同時に、オーナーだけが上昇するコストを負担し続ければ、必要な修繕や設備更新、住環境への再投資が難しくなることがあります。どちらか一方だけに負担を寄せるのではなく、根拠を示して話し合い、持続可能な賃貸関係をつくることが大切だと考えています。
住宅でも依頼できるよう、業務を標準化しました
住居系物件でもサービスとして成立させるため、対象条件を明確にし、資料収集、住戸ごとの診断、通知、記録、進捗管理、合意書作成をできる限り標準化しました。RC一棟・20〜30戸規模を主要な想定案件としつつ、構造ではなく、賃料見直しの候補となる入居中住戸数や増額余地を基準にするのも、品質を保ちながら一住戸当たりの負担を抑えるためです。比較事例の確認には外部データも活用しますが、査定値をそのまま法的な結論にせず、契約や個別事情を弁護士が確認します。
通知を送って終わるのではなく、本サービスの委任範囲では、任意交渉と賃料変更合意書の作成までを一つの流れとして扱います。ただし、賃料の増額や合意の成立を保証するものではありません。合意に至らず、調停・訴訟を検討する場合は、見通しと費用をあらためて説明し、別途の委任契約を締結するかをご判断いただきます。「賃料増額を拒否された場合の任意交渉・調停・訴訟」もあわせてご覧ください。
実務に基づいて改善を続けます
この分野には、すべての物件に当てはまる一つの正解はありません。地域、物件、契約、入居期間、資料、相手方の事情によって適切な対応は変わります。当事務所では、受任した案件一件一件に責任を持ちながら、実務で得た知見や集計結果を反映し、説明、手順、料金、管理会社との連携方法を継続的に改善します。
このサービスは発展途上です。だからこそ、結果を誇張せず、何が有効で、どこに課題があるのかを検証しながら改訂を重ねます。オーナーとして同じ課題に直面した経験と、弁護士としての責任の双方を踏まえ、根拠の乏しい増額を勧めず、進めるべき案件と見送るべき案件を見極めていきます。
よくある質問(FAQ)
Question 1なぜ弁護士が賃料の見直しを扱うのですか
賃料の見直しは、希望額を通知するだけでは終わらないことがあります。契約内容や改定履歴、租税その他の負担、経済事情、近隣・同種物件の賃料などを確認し、異議が示された場合には法的な評価を踏まえて話し合う必要があります。当事務所では、診断から任意交渉、賃料変更合意書の作成までを一つの流れとして支援します。
Question 2管理会社が賃料見直しを行うことはできないのですか
管理会社がオーナーの方針や資料を伝え、事実関係や賃借人の意向を確認する場面はあります。管理会社の業務が一律にできないという意味ではありません。ただし、法的評価を前提とした個別交渉へ進む場合には、具体的な業務内容に応じて弁護士法上の検討が必要になります。どの段階で弁護士へつなぐかを整理することが重要です。
Question 3弁護士へ依頼すれば、必ず賃料が上がりますか
いいえ。契約内容、改定履歴、経済事情、近隣・同種物件の賃料などによって判断は異なり、増額や合意成立を保証するものではありません。資料を確認した結果、請求額の見直しや、現時点では進めない判断をご提案する場合もあります。
Question 4賃借人が同意しなければ、すぐに退去を求めるのですか
いいえ。本サービスは、増額に同意しないことだけを理由に退去を求めるものではありません。まず根拠を示して任意の協議を行います。通知を送っただけで提示額が当然に確定するわけでもありません。任意交渉を続けるか、そこで終了するか、調停・訴訟を検討するかを、見通しと費用を踏まえて個別に判断します。
Question 5どのような物件が主な対象ですか
品質と費用のバランスを保つため、賃料見直しの候補となる入居中住戸が原則9戸以上あり、候補住戸の平均で1戸当たり月額5,000円程度以上の増額を検討し得る資料・事情がある住居系賃貸物件を主な対象にしています。RC一棟・20〜30戸規模を主要な想定案件としていますが、建物構造は受任条件ではありません。所在地、現行賃料、入居時期、契約内容、過去の改定状況なども事前に確認したうえで、対応の可否をご案内します。
所有物件が本サービスの対象になるか、まず確認しませんか
所在地、対象戸数、現行賃料、入居時期、契約書やレントロールの有無などを基に、本サービスの対象になり得るかを無料で事前確認します。無料の事前確認は、対象条件、必要資料、受任可能性を確認するためのものです。入力内容だけで増額の可否や金額を判定するものではなく、賃料増額や合意成立を保証するものでもありません。
管理会社からオーナー・物件をご紹介いただく場合は、管理会社専用の紹介フォームをご利用いただけます。
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本記事は一般的な情報を提供するもので、個別案件についての法的助言ではありません。契約内容や事実関係により判断は異なります。公開時点の法令・サービス内容を確認し、具体的な案件は個別にご相談ください。